ピンクにすりゃいいってもんじゃない!NFLの女性戦略について

この記事では、アメリカで一番の人気を誇るプロスポーツ、アメリカンフットボール(NFL)が女性客獲得のために行っている取り組みをご紹介します。

アメリカの国民的人気スポーツといえば、野球…ではなくてアメフトです。32チームあるプロリーグの人気はもちろんのこと、大学フットボールでも1試合10万人を動員することもザラです。地元の高校チームの試合結果だってニュースになります。

そんなアメフト業界が、人気スポーツの地位を不動のものにすべく取り組んでいるのが「女性ファン獲得」です。プロリーグであるNFLの取り組みをいくつかご紹介してみましょう。

NFLのメインターゲットは男性?

アメフトを一番好きなのは、当然ながらアメリカ人男性です。小さいときはフットボール選手になるのが夢で、贔屓のチームの試合をテレビで見ながら興奮して、職場では先週の試合結果を語り合い、子どもにはフットボールをさせたいと思っている人は少なくありません。(日本における一昔前の野球のイメージです)

代表的なファンのイメージは、デカイ車(ピックアップトラック)を運転してビール・コーラー・ピザが大好きで太っている中流階級の白人男性です。TVを見ていてると、そういう人をターゲットにした商品のCMが多く流れます。

しかし、そういう人の数は限られています。そのため、市場拡大のために子ども、高所得者(個室で商談しながら観戦なんてスタイルも)、ヒスパニック(2016シーズンはメキシコ大会も開催)、そして外国人(イギリスでの試合を継続中)もターゲットに広げています。残念ながら日本は一切流行る兆しがないので、力を入れていないようだけど、アジアの巨大マーケットである中国では2018年に公式戦を開催するともいわれています。

でも、海外戦略と同時にNFLが国内で力を入れているのが「女性」です。

男性が結婚してフットボールを見なくならないでほしい。子どもが生まれたらその子にフットボールをやらせて欲しい…などの思惑から、女性にも広くアプローチしているのです。

10月はNFLのピンクリボン月間

長らく男性社会だったであろうNFLは、2009年から毎年10月を乳がん啓蒙月間として、ピンクリボン(乳がん防止のシンボル)キャンペーンをやっています。選手たちはピンク色のグッズを身につけ(タオルとか手袋とか靴下)、チームのSNSアカウントはピンクリボンバージョンに変化します。

立派な心がけなのだけど、根底にあるのは「女性にも配慮している」という企業アピールだと思われます。

*ちなみに翌11月は兵隊さんに感謝する月間で、グッズが迷彩柄になる。

選手のDV事件の隠匿から一転

2014年に、当時ボルティモア・レイヴンスに所属していたRBのレイ・ライスという選手が逮捕されました。 NFL選手の不祥事は日常茶飯事で、多くの選手が数試合のペナルティの後に復帰してきます。ライスの場合も2試合の出場停止処分をうけたのですが、事態は深刻でした。

ライスが逮捕されたのは、婚約者へのDV(ドメスティック・バイオレンス)だったのです。

男性社会であるNFLの当初の対応は、誠実ではなかったようです。しかし、社内外で処分が軽すぎるという声、とくに女性からの反感を重くうけとめたNFLはライスを「無期限出場停止」としました。

http://www.nfljapan.com/headlines/59427.html

ライスは2016年に出場停止が解除されたものの、現時点でどのチームにも所属していません。

女性のため?脳震盪に対する規制強化

NFL選手たちは怪我と戦っています。一番恐ろしいのは脳震盪(Concussion)です。ヘルメットを装着しているとはいえ、重量級のスポーツマンがトップスピードで頭と頭でぶつかることもあります。

「ぶつかって頭がフラフラする」なんて生易しいものではなくて、生涯後遺症に悩まされる非常に危険なものです。

これは、同時にフットボール選手の親たちにとっても悩みの種です。そんな危険なスポーツを子どもにやらせて良いのだろうか、と心配する親が増えると若年層の競技人口が減っていき、やがて衰退してしまいます。

それを避けるため、NFLなどは脳震盪を防ぐためのルール改正や、脳震盪になった選手を保護するための制度(翌試合は強制出場停止、など)を強化して、親たち、とくにフットボールを自分でプレーしたことのない母親たちに競技の安全性をアピールしています。

https://www.washingtonpost.com/news/early-lead/wp/2016/04/10/bruce-arians-vital-moms-get-the-message-that-their-kids-should-play-football/

カーディナルズのHCブルース・アリアンズが2016年にツイッターで炎上したようです。炎上をうけ、彼は「子どもたちが競技を始める決定権は母親たちにあることが多い。私は競技が可能な限り安全に行なわれているということを彼女たちに知って欲しい」といった趣旨のことを発言しています。

そうはいっても、「子どもに夢を見せておいて、(脳震盪によって)悪夢を与えた」という批判もあるくらい、脳震盪による事故は多いというのが現状のようです。年間200人ほどの大学生がプロになり、10年未満でほとんどの人が引退する華の舞台の裏には、人知れず怪我や事故で選手生命を絶たれた若者が山ほどいることでしょう。

そうはいっても、脳震盪に苦しむ人たちの情報をNFLはあまりオープンにしていなかったようで、NFLの脳震盪問題に切り込んだ医師を描いたウィル・スミス主演の映画「コンカッション」なんていうのも作られました。日本では2016年10月26日全国公開のようです。

ちょっとタイトルが深刻っぽくないけれど、1回目が完治せずに2度目の脳震盪を引き起こすと、下手すると死んでしまうそうです。

女性目線でつくるウェア

友人が参加したイベントで、NFLの女性幹部の講演を聞く機会があったそうです。NFLの女性向けウェア戦略には”Don’t Pink, Don’t Shrink” (なんでもピンクにするな、なんでも小さいサイズにするな)というものがあるそうです。

長らく男性社会だったNFLでは、「女性向けグッズはとりあえずピンク色バージョンを出しときゃいいだろう」とか「男性用のジャージのSサイズを女性用にすればいいだろう」という考えが蔓延していたようです。しかし、すべての女性がピンクを好きなわけではありません。男性と女性では体型が違うので、男性のSサイズの服が女性の体型にあうとは限りません。

(ピンとこない人は男性用のYシャツと女性用のYシャツを比べてみてください。デザインがすごく違います)

意思決定できるトップに女性を登用することで、女性向けの商品企画が女性寄りとなって、より売れる製品が作られてきたようです。

スーパーにいったら、NFLのコスメ売り場までありました。

女性向けNFLグッズのご紹介。

ここからは、米国のAmazon.comで見つけてきた女性向けのNFLグッズをひたすら紹介していきます。

左の男性用ジャージと比べると、シルエットを女性向けにしていることがわかるでしょうか?

普段使いできそうなデザインのロングTと半袖Tシャツ。ダボっとしていないシャープなシルエットです。

これなんて、言われないとNFLグッズとは気づかないかもしれません。チームカラーのチェックにワンポイントでチームロゴが入っています。

ちなみに、おしゃれに無頓着な多くのアメリカ人女性はこんな小洒落たウェアではなくて、平気で好きなチームのダボっとしたジャージやTシャツを(私服として)着ていることも多いです。

チームのTバッグまであります。どういうシチュエーションで着用するのでしょうか。

そうはいいつつも、スタジアムにはチアリーダーが主に男性客を意識して踊っているのでありました。

まとまりがなくなったけれど、NFLは女性ファン獲得のためにいろいろやってるよ、ということです。